【カウンセラーだより】研究紹介②子どもの頃のキャンプは、その後の人生でどんな意味をもつのか?

こんにちは、先日、母と妹と筑波山ご来光を見てきたふゆりんです。

このページは、「キャンプに関する研究紹介」第2弾です!

(僭越ながら、一番語りやすい自分の研究から紹介させていただきます。)

 

今回も、前回に引き続き、子どもの頃にキャンプに参加し、大人になった「元・キャンパー」の皆さんに注目。

これまでの人生の中で、子どもの頃のキャンプの思い出がどんな意味を持ってきたのか?の研究についてご紹介します。

 

➡研究紹介第一弾「研究紹介①子どもの頃のキャンプの思い出は大人になっても覚えてる?」はコチラから

 

▼この研究紹介の元の論文▼

佐藤冬果、井村仁(2018):子ども時代の組織キャンプ経験に関する自伝的記憶:ライフストーリーインタビューからの質的検討、野外教育研究、第22巻1号、p.1-18.
要約:本研究は子ども時代の組織キャンプ経験が参加者に与える長期的な影響を明らかにすることを目的とし、組織キャンプへの参加経験を持つ7名(男性3名、女性4名、20~40代)を対象にキャンプの記憶とライフストーリーに関する半構造化インタビューを行った。解釈的現象学的分析の結果、子ども時代の組織キャンプ経験の意味は、自己への影響として「自己の核」「自然観」「人とのつながり」「社会性の獲得」「自信の獲得」「野外教育や野外活動に関する態度・技能」「行動力」の7テーマ、影響の元となったキャンプの要因として「仲間・指導者の存在」「楽しさ」「非日常の場」「極限状況の体験」「連続参加」「成功体験」「キャンプ前のモチベーション」 の7テーマ、計14テーマに集約された。キャンプの記憶は再び参加したときや進路選択などを契機に想起され、想起時点の自己によって再解釈・意味の再付与が行われるという自伝的推論のプロセスが確認された。

 

1. どんな調査をしたか?

子ども時代に参加したキャンプは、きっと「いい思い出」になっている以上に、その後の人生に影響を与えるはず!
…と思ったので、実際に聞いてみました。
第1弾は、沢山の人に聞く方法をとりましたが、第2弾は、少ない人数の人をじっくり調べる方法です。

 

調査の対象者:子ども時代にキャンプに参加した経験がある20~40代の男女7人(Aさん~Gさん)

調査の方法:調査者(ふゆりん)と1対1のインタビュー調査(半構造化面接)

調査の内容: ①最も印象に残っているキャンプの思い出

②子ども時代のキャンプ経験全体の思い出

③これまでの人生のストーリー

④これまでの人生とキャンプ経験のつながり、キャンプ経験の意味

面接の時間:1人当たり1時間15分~2時間30分

記録の方法:ICレコーダーによる録音とメモ、録音音声は文字起こし

喋ってもらった会話の文字数:20,700字~35,300字

分析方法:IPA分析(解釈的現象学的分析)←ちょっと難しいので詳細は省略しますね

 

2. どんな話が聞けたのか?

どの方も、もう10年以上も経っているのに、生き生きとしたキャンプの記憶を語ってくれました。

Aさんは、可愛がってもらったカウンセラーや、初対面だったのに仲良くなった友達とさようならしなければならないことを実感し、寂しくなって泣いたという、帰りのバスの中での出来事(当時小学1年生)。

Bさんは、キレイな星空を眺めながら、友人たちと語り合った夜のこと(当時小学6年生)。

Cさんは、天気が荒れ、夜になっても目的地に着かないほどにハードだった登山のこと(当時中学3年生)。

Dさんは、キャンプ初日に火を囲んでいたらホームシックになってしまったこと、そんなDさんにカウンセラーが優しく寄り添ってくれたこと(当時小学6年生)。

Eさんは、道を間違えてしまって十数時間山を彷徨うことになった登山のこと(当時小学5年生)。

Fさんは、学校行事として行ったキャンプのナイトハイクで迷子になった時のこと(当時小学4年生)。

Gさんは、初めて森の中で一人きりで寝るプログラム(ソロビバーク)をした時のこと(当時小学5年生)。
 

みなさんそれぞれ、様々なキャンプ経験をしてきていますが、
大人になって思い出すのは、「人とのあたたかな関わりの記憶」や「ハードな状況を乗り越えた記憶」が多い結果でした。

 

3. Cさんのエピソード

では、ここでは、キャンプから受けた影響がとっても大きく、特徴的だったCさんのストーリーをものすごく簡単に短縮してご紹介します。

Cさんにとってのキャンプの記憶は、
「きわめて重要で、自己認識に影響を及ぼしたり、その後の考え方や行動に影響を及ぼす出来事(p.137)」1)の記憶とされる『個人的出来事記憶』として保持されていると考えています。

 

以下、「」で囲まれた部分はCさん本人の言葉です。

 

キャンプに参加する前の話

田舎で生まれ育ち、自然の中で遊ぶような元気いっぱいな子どもだったCさんですが、
中学校でいじめに遭い、不登校になってしまいました。
「徐々に自己肯定感が下がって」いく生活のなかで、中学校3年生の夏、キャンプに参加する機会を得ました。

 

キャンプの思い出

キャンプには、同じように不登校で辛い思いをしている子も、そうでない子も、ごちゃ混ぜに参加していました。
そんな子たちと関わりながら不便なキャンプ生活をする中で、Cさんはこんな経験をします。

「火を起こしたりとか、野外炊飯とか、そういうのはすごく得意だったので、美味しいご飯をお前のおかげで食べれたよ、と。あなたが居たからこんなに早く設営が出来たよ、と、認められるっていう経験がすごく良かったかなと。今思うと、そういうのが結構自分の中で、気持ちの変化が出てきたかな。」

「知恵を使わないと、アイディアがないと、生き残れないんだよね。…それをベースにしながら活動していたっていう経験が、自分にとって、こうすればいいんだ、ああすればいいんだっていうアイディアが出てきて、そこの成功体験が1つ1つの自信になってきたのかなって思う。」

「自分1人じゃ何もできないんだなぁ、仲間がいれば何とかなるんだな、っていう体験ができたのがよかったのかな。」

「どれだけ自分が恵まれた環境の中で生活していたのか、というのを気づくきっかけでもあったのかな。」

 

そんなキャンプ中盤には、1泊2日の登山がありました。
「すごく過酷な登山だったのをすごく覚えていて。1日目の夕方からもう真っ暗になって、雨が降ってきて。すごく寒くて。…山の中を、ほんとに登ったり下ったりして…自分が発狂しそうな位、なんでこんな所連れてきたのと…ほんとに苦痛で苦痛で苦痛で苦痛でたまらなくて。周りの子たちも疲弊して。で…夏の8月の時期だったんだけども、寒くて手が震えてきちゃって。…これはもう生きるか死ぬかだなっていう経験をしたのが、多分初めてだったのかな。」

 

キャンプの後の人生

過酷な登山を含むキャンプを終え、無事に家に帰ったCさん。
高校進学という目標に向け、努力したCさんは、無事に高校に進学し、皆勤賞をとりました。
当時を振りかえり、以下のように語ってくれました。

「ずっとふさぎ込んでいたのを、バナナの皮みたいに、剥がしてくれた人たちが、人であり体験だったり、キャンプだった。」

「大学生や大学院生の友達が出来て、大学の先生に14歳で出会ってるんだよね。それはすごい財産だなって、すごい人生が豊かになる経験をさせてもらったなって。」

 

4. 7人のストーリーに共通するキーワードをまとめると…

Cさんの物語を読んでいると、「自信を得たこと」「友人の存在」「スタッフの存在」などのキーワードが見えてきます。

きっと、キャンプの経験がある方や、TOELキャンプの保護者の方がこのページを読んでいたら、「(うちの子が言っていたのと)同じだ!」と感じる部分もあるかもしれません。
そんな風に、7人の物語をじっくり読んでいくと、共通のキーワードが見えてきます。

「現在の個人にとって、子ども時代の組織キャンプ経験の意味とは何か」という視点でキーワードをまとめたところ、14のテーマに集約されました。

 

【自己への影響】

①《自己の核》

➡「私の場合は、精神的な成長、子どもの発達の段階に、もうキャンプが入ってしまっていたから、…切っても切り離せないというか、キャンプが背骨の一つみたいな感じで私の人生にあった」というEさんの話が代表的。自分自身の「核」はキャンプでできた!と、小2からキャンプに参加したふゆりんも思っています。

②《自然観》

➡「自然に慣れた」(Fさん)、「人間として自然とどう関わっていくかに考えが及ぶようになった」(Eさん)など。TOELキャンパーのアンケートにも、自然に関するコメントがたくさん見られます。やっぱり自然にどっぷり漬かって感じたことは、大人になっても残るんですね。

③《人とのつながり》

➡キャンプに参加したことで、キャンパーやスタッフとのつながりが出来たことが大きな意味を持っていたり、生涯の友を得たことが大きな意味を持っていたりしました。これはもう、イメージしやすいですよね。現役のキャンパーたちを見ていても、「キャンプでしか会えない友達」との関係って、すごい特別なんだなぁと感じます。

④《社会性の獲得》

➡「人と関わることに恐れが少なくなったのもあると思う。キャンプでは初対面の人たちとやっていかなきゃいけないから。」(Bさん)などが代表的。初対面の人と一緒に生活するキャンプ。ぶつかったり、嫌な思いをすることもあるけど、やっぱり楽しく過ごすためにみんな成長します。大人になって、自分のコミュニケーション能力の源を思い返すと、キャンプのおかげだったなぁと思う人も多いのではないでしょうか。

⑤《自信の獲得》

➡Cさんの事例や、「あれ(登山)が無かったら、私、全然違う人間になっていたかもしれないです。どうやって自信をつけたらいいか、自信がないってことさえも気づかない中で、自信がないことが原因で、もっと違う生活を…ネガティブな意味で、違う人間として違う生活をしていた気がするので」というEさんの話が代表的。キャンプは、初めてのことや、大変なことにチャレンジする機会であふれています。自分に自信をもつと、お家に帰ってから色んな効果に広がっていくようです。

⑥《野外教育や野外活動に関する態度・技能》

➡キャンプ経験から野外教育や野外活動への興味関心を得た、あるいは野外活動の技術を得たという語りから生成されたテーマです。なかには、キャンプを通して、「カウンセラーになりたい!」とキャンプの指導者に憧れ、実際に職業として野外教育に関連する分野を選択した例もありました(←これはまさにふゆりんと同じ)。

⑦《行動力》

➡キャンプ経験からやり抜く力や主体的に動く力、やるしかない時の行動力を得た!という話がたくさん出てきました。キャンプは、身の回りのことも、ご飯も、自分で何とかしなきゃいけない生活ですものね。

 

【自身への影響の元となったキャンプの要因】

⑧《仲間・指導者の存在》

➡「一期一会の出会いでも、こんな大事な思い出っていうか、仲良くなれるんだっていうのが大きかった」(Aさん)など。キャンプ経験において仲間や指導者の存在、集団生活に意味があった!と全員が話してくれました。<仲の良い仲間>の存在だけでなく、<見本>となるような年上の参加者の存在や、自らが<見本>として振る舞うことが求められる年下の参加者の存在についても語られました。

⑨《楽しさ》

➡「(5年生以前のキャンプでは)親元を離れて何日間も、っていうのがすごく嫌だったんだと思う…楽しい思いを僕が出来なかった。 (楽しさを感じるようになった)小学校5年生以降のキャンプを経験して…リーダーシップっていう部分が、自分の中に出てきた」(Gさん)など。キャンプの《楽しさ》を感じたことが、参加者の成長を促進させていた例です。楽しいって大事!

⑩《非日常の場》

➡キャンプが<学校外の世界>であったことや、<自然環境下での活動>をするなど、日常生活とは離れた場であったことに意味が見出されていました。「別の県に友達が居るんだ!」というのも、世界を広げてくれますよね。

⑪《極限状況の体験》

➡登山などによって「生死の境だ!」と思ったこと、つまり心理的・身体的な負荷を感じた経験が、その後の達成体験とも相まって、時を経ても参加者の記憶に留まっているようでした。本当に死にそうになっちゃダメですが、重い荷物を背負って山の斜面を歩いている時には「死んじゃう!」と思うくらいシンドイですし、日が落ちた森の中にポツリ居るだけでも、とっても不安になります。安心安全な現代社会。こんな経験も、たまには大切なのかもしれません。

⑫《連続参加》

➡キャンプへ継続的に参加することの意味について、5人から話が出ました。1回だけでも間違いなく何か意味があると思いますが、「(自然の見方が)毎年夏になると、広がっていったり深くなっていったりっていうのを、毎年行くことによって、引き続き考えることが出来た」(Eさん)と語られたり、毎年会える友人が出来たり…と、連続して参加することで、より大きな意味を持つようです。

⑬《成功体験》

➡Aさんにとっては仲のいい友人を作ることが出来たという成功体験が、CさんやEさん、Fさん、Gさんにとっては登山やソロビバークなどの困難を乗り越えた成功体験が、BさんやCさんにとっては仲間から認められる経験が、自身の変化のきっかけとして振り返られました。

⑭《キャンプ前のモチベーション》

➡「自分自身をチャレンジ…という気持ちで取り組んだのが一番大きかった」というCさんの語りのように、キャンプに参加する前の前向きなモチベーションがキャンプからの学びに影響していたという語りから生成されたテーマです。やっぱり、「キャンプに行ってみたい!」というお子さん自身の気持ちが、成長のための大きな基盤なんですね。キャンプで成長したのではなく、キャンプに行きたい!と言い出した時点で、成長してるんだなぁ、と思います。

 

以上が研究の結果です。

だいぶ短縮版で紹介してしまいましたが、

キャンプ参加後年月が経過し、自分が変化するのに伴ってキャンプ経験の意味づけが変化する場合や、
に伴う認知的な発達や新たな語彙の獲得によってキャンプの意味が深まる場合
そして、その後の人生で生起する別の出来事とキャンプの記憶が結びつき、過去のキャンプ経験がより大きな意味を持つ場合

などが確認されました。

 

「キャンプによる影響はその直後で固定されるものではない」ということを、ふゆりんは一番お伝えしたい!(笑)

Cさんも、キャンプの影響は「後になってから、3年4年5年経ってから気づくようになってきた」と話していました。

キャンプからお家に帰ってきて、何も変わらないなぁ~と思うこともあるかもしれませんが、

成長の為のタネは、心の中にそっと秘められているのだと思います。

 

今はこういう意味だけど、大人になったらこういう意味を持った、と変化するかもしれませんし、

楽しかったけど意味はないと思っていても、もしかしたら大人になってから意味が出てくることもあるかもしれません。

 

とにかく、キャンプに参加してみてください(∩´∀`)∩

 

投稿:研究頑張ります ふゆりん