【カウンセラーだより】研究紹介①子どもの頃のキャンプの思い出は大人になっても覚えてる?

こんにちは、ふゆりんです^^

秋ですね。食欲の秋(よく食べ)、勉学の秋(パソコンに向かって動かない)を過ごしています。

さて、キャンプに参加してくれた参加者の皆と保護者の方々には
事後アンケートをお願いしていますが、

「子どものキャンプを対象にした研究では、どんなことが言われているのか読んでみたい!」

というコメントを毎年いただきます。
そこで!これから何回かに分けて、キャンプの効果についての研究成果をご紹介していきます。

 


 

まず初回は、一番語りやすい自分の研究(修士論文)の内容から。

タイトルは

「子ども時代の組織キャンプ経験に関する自伝的記憶」

(平成28年度 筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻修士論文)です。

この内容は、
「日本野外教育学会」が発刊する「野外教育研究」という雑誌に
以下の2本の原著論文として掲載されました(されます)。

①佐藤冬果、井村仁(2018):子ども時代の組織キャンプ経験に関する自伝的記憶:記憶特性質問紙を用いた検討、野外教育研究、第21巻2号、p.15-26.

要約:本研究は、子どもを対象とした組織キャンプが参加者に与える長期的な影響を明らかにすることを目的に、子ども時代に組織キャンプへの参加経験を持つ19歳以上を対象に「キャンプの記憶に関するアンケート」を用い、記憶の内容とその特性に関する調査を行った(有効回答191件)。最も印象的な出来事としてキャンプファイヤーや登山、仲間や指導者との関わりの記憶が多く挙げられ、中でも指導者との関わりの記憶や達成体験の記憶は「その記憶から何かを学んだ」など、重要な記憶だと評価された。また、登山などの達成体験の記憶は他の記憶と比較してより鮮明に、より頻繁に想起されていた。加えて、25歳以下の回答者よりも26歳以上の回答者の方がよりキャンプの記憶を重要だと評価する傾向がみられた。そして、全体の約8割の回答者が現在も何らかの影響を受けていると回答し、その影響の内容が6つのカテゴリー(①自己②他者③自然④野外活動⑤進路選択⑥その他)に整理された。

②佐藤冬果、井村仁(2018):子ども時代の組織キャンプ経験に関する自伝的記憶:ライフストーリーインタビューからの質的検討、野外教育研究、第22巻1号、p.1-18.

要約:本研究は子ども時代の組織キャンプ経験が参加者に与える長期的な影響を明らかにすることを目的とし、組織キャンプへの参加経験を持つ7名(男性3名、女性4名、20~40代)を対象にキャンプの記憶とライフストーリーに関する半構造化インタビューを行った。解釈的現象学的分析の結果、子ども時代の組織キャンプ経験の意味は、自己への影響として「自己の核」「自然観」「人とのつながり」「社会性の獲得」「自信の獲得」「野外教育や野外活動に関する態度・技能」「行動力」の7テーマ、影響の元となったキャンプの要因として「仲間・指導者の存在」「楽しさ」「非日常の場」「極限状況の体験」「連続参加」「成功体験」「キャンプ前のモチベーション」 の7テーマ、計14テーマに集約された。キャンプの記憶は再び参加したときや進路選択などを契機に想起され、想起時点の自己によって再解釈・意味の再付与が行われるという自伝的推論のプロセスが確認された。

 

こんな文章だとややこしいので、以下で簡単に内容を紹介させていただきます!

ただ、かなりボリューム感満載の修士論文なので、

今回は前半戦①の「記憶特性質問紙を用いた検討」についてです。

(次回(?)、②について書きたいと思います!)

 

1. なぜキャンプの「記憶」の研究をする必要があるのか?

都市化した現代社会で生きる子ども達は、自然や仲間達と濃~く関わる機会が少ないです。

これまでに行われた研究で、キャンプをすることによって、コミュニケーション能力などの「社会性の向上」や「自己肯定感の向上」、「自然観の醸成」など、たくさんの効果があることが明らかにされています。

そんな、全人的教育が出来るということで、キャンプはとっても効果がある方法のように思われます。

(これは、我々やキャンプを知らない研究者よりも、キャンプにお子様を送り出した経験のある保護者の方々の方がよく分かって下さることかもしれません。)

 

 

これまでの研究は、「キャンプの参加前と参加後でどんな変化があったのか?」ということを、子ども達のアンケート調査の得点を参加前後で数的に比較する方法がほとんどでした。

でも、キャンプは、参加してすぐ見られる効果だけではありません。
ふゆりんも小学校2年生からキャンプに参加してきましたが、大人になってから、キャンプの事を思い出したり、キャンプの影響に気づくことも多いです。

こんな経験から、本当の意味でのキャンプの効果は、「その後の人生を生きる糧になったか?」なのではないかと思ったふゆりんは、キャンプ後、年月が経って大人になったキャンプ参加者たちから話を聞き、キャンプの効果を検討することにしました。

 

 

2. 記憶を研究する方法、「自伝的記憶」

 

そこで、心理学分野の「自伝的記憶」の研究手法をお借りしました。

どれくらい頻繁に思い出す思い出か?
どれくらい鮮明に覚えているか?
どれくらい大事な思い出か?  などを得点化し、

大人になった参加者が持っているキャンプの思い出の「記憶特性」をまずは調べることにしました。

 

 

 

 

次に、
「キャンプの思い出は大人になった参加者にとってどんな意味を持っているか?」
を調べるために、「自伝的推論」の概念をお借りしました。

キャンプの後の人生で経験した出来事との繋がりや、
現在の自分への影響などを詳しく調査しよう!というわけです。

 

 

 

 

 

3. 調査の内容

前半戦①「記憶特性質問紙を用いた検討」調査の目的は図の通りです(雑な説明ですみません)。

 

 

 

 

 

 

 

 

この4つの観点を調べるために、
「過去に組織キャンプ(教育的な意図をもったキャンプ)へ参加したことのある19歳以上の大人」の皆さんに、
インターネットを通じてアンケート調査にご協力頂きました。

 

アンケートでは、

①現在の年齢や職業などの「フェイス項目」、
②何年生の時にどんなキャンプに行ったのか、という「キャンプ経験」、
③そのなかでも印象に残っている「キャンプの出来事」、
④その出来事の「記憶特性質問項目」、
⑤その出来事から「受けた影響について」、そして
⑥キャンプ経験全体から受けた影響

について答えて頂きました。

 

 

記憶特性の質問項目は図の通りです。
ただ、今回は

「どれくらい思い出したか?」「どのくらい頭に浮かぶことがあったか?」という『リハーサル頻度』、
「どのくらい鮮明に覚えているか?」という『鮮明度』、
「どのくらい自分に影響しているか?」「どのくらい重要な記憶か?」という『自己との関連』と『重要度』に絞って検討します。

 

 

4. 調査の結果

アンケートには、191人の有効回答を頂きました。 年齢と男女比は図の通りです。

①最も印象に残るキャンプの思い出を経験したのは半数が小学校4~6年生!

いつ頃経験したキャンプなのか?は、半分以上が小学校4~6年生の時のキャンプを挙げました。アドベンチャーキャンプ年代。やっぱり、この時期の経験って、しっかり思い出に残るんですね。

②最も印象に残るキャンプの思い出として多く挙げられるプログラムは「キャンプファイヤー」「登山」!

どんな場面を覚えているのか?を「出来事」を基準に分類すると「キャンプファイヤー」や「登山」が上位に。何気ない生活の場面も多く回答されました。

③最も印象に残るキャンプの思い出として多く挙げられる状況は「仲間との関わり」「指導者との関わり」!

どんな場面を覚えているのか?を「出来事の対象」ごとに分類すると、やはり「仲間」との関わりや「自然」、「指導者」との関わりが数としては多く挙げられました。

④年をとっても、記憶の鮮明さや思い出す頻度は変化しない&『重要度』は年齢を重ねると上がる!

年齢ごとに、記憶特性の得点を比較するとこんな感じです。 ざっくりいうと、「年齢を重ねても思い出す頻度や鮮明度などは低下しない」、つまり年をとっても変わらず覚えている!という結果でした。そして、「どのくらい自分に影響しているか?」「どのくらい重要な記憶か?」という『自己との関連』と『重要度』は、年齢を重ねると得点が上昇する傾向が見られました。

⑤頻繁に思い出される思い出は「達成体験」!

どんな場面がよく思い出されるのか?を調べると、「達成体験」がダントツのトップ。何かを達成した記憶は、頻繁に思い出されていました。

⑥鮮明に記憶されている思い出は「登山」「達成体験」「指導者との関わり」!

どんな場面の記憶が「鮮明に覚えられているのか?」を調べると、登山、達成体験、指導者の記憶が鮮明に覚えられていました。

⑦今の自分に影響したと評価されている思い出は「達成体験」「指導者との関わり」!

最後に、どの記憶が「大事だ!」「自分に影響している!」と思われているかを調べると、「達成体験」や「指導者」の記憶、キャンプファイヤーや登山、仲間の記憶も有意に得点が高い結果になりました。

⑧8割の大人が子どもの頃のキャンプ経験から何かしらの影響を今も受けている!

最後に、キャンプの記憶からどんな影響を受けたか?をまとめると、図のようになりました。2割の人にとっては「いい思い出」「楽しかった思い出」としての意味しか持っていませんでしたが、8割の人が自分への影響、他者とのかかわり方への影響、自然の捉え方についての影響、野外活動への考え方への影響、進路選択への影響…を認識していました。

 

5. 結論

以上の事から、導きだされた結論です。

子どもの頃のキャンプの記憶は、大人になってもしっかり覚えているものだ!という私の感覚と、
おおよそ一致した内容になった今回の研究。

個人的には、指導者の影響力の強さがとても印象深く、
子ども達と関わる時には、その思い出がその後の人生に影響を与えるかもしれないのだということを、
しっかり肝に銘じて子どもたちと関わりたいと思うようになりました。

また、「登山」など、大きなチャレンジを「達成」した記憶は、
鮮明に記憶されて、頻繁に思い出され、大きな影響力をもつことが確認されました。

思い起こせば1年前…。
ふゆりんがプログラム係をした時のアドベンチャーキャンプでは、超ハードな登山ルートに、子ども達からはクレームが殺到(?)しました。
でも、目的地について時やゴールした時の記憶は、きっと鮮明にみんなの中に残って、大人になるまでみんなを支えてくれるのだろうと思います。

 

ただ、この研究にも「研究の限界」というものがあります。
アンケートに答えてくれた人たちは、わざわざ時間をつくってキャンプの事を思い出して回答してくれた人たちなので、
きっと、「影響力があった!」という意見に、結果が少し傾いている可能性は否定できません。
これからも、研究を深めて、弱点を克服していきたいところです。

質問等あれば、事務局までご連絡くださいね。

 

6. 引用文献

中央教育審議会(2013):今後の青少年の体験活動の推進について(答申)、文部科学省.

森井利夫(1995):キャンプの意味 現代のエスプリ キャンプ、至文堂、334:16.

中込四郎、奥田愛子(2014):原風景から見た幼少期の身体経験のもつ意味、澤江幸則、木塚朝博、中込四郎編著、筑波大学「未来の子ども育ち」プロジェクト企画、未来の子どもの育ちの支援のために-人間科学の越境と連携実践③-身体性コンピテンスと未来の子どもの育ち、明石書店、95.

佐藤浩一(2007):自伝的記憶の構造と機能、新潟大学大学院現代社会文化研究科、博士論文.

佐藤浩一(2014):自伝的推論―概念ならびに評価方法の整理と包括的な枠組みの提案―、群馬大学教育学部紀要人文・社会科学編、63:129-148.

 

 

投稿:ドクター(博士課程)学生でもある ふゆりん